大腸ガンが急増しています。大腸ガンは、早期発見すれば治療できる病気ですが、おしりの健康に積極的に注意を払わずに兆候を見過ごしていたり、恥ずかしさから一人でがまんしている人も多いようです。「赤ちゃんのようなおしりを取り戻す」をモットーに、おしりと大腸の専門クリニックを開設された服部和伸先生(はっとり大腸肛門クリニック名誉院長)に、おしりの健康についてうかがいました。
――― 大腸ガンが増えていると聞きますが、最近の傾向は?
大腸の病気は、私たちの食生活と深い関係があり、食生活の変化に伴って増えてきて います。診察に来られた患者さんにガンやポリープ、潰瘍、潰瘍性大腸炎やクローン病などが見つかることもあります。また、文明病とも言われている痔は、虫歯とともに 先進国ほど多く、日本では3人に2人が痔の病気を持っているといわれています。痔の患者さんで、ご本人が気づかないうちにガンを発症しているケースもあり、痛みや出血といった自覚症状だけでは区別がつきません。「がまん強さ」は、北陸の地域性として長所でもあると思いますが、強度の貧血を起こして、貧血を治療しないと手術も受けられないほどの状態になっておられるような患者さんもいます。石川県では大腸ガン検診の受診率は16.7%と低いのですが、ご自身の健康のためにもぜひ、「ちょっと悪いかなと思ったら診てもらう」習慣をつけてほしいと思います。
――― おしりの病気と治療は、具体的にはどんなものですか?
痔の三大疾患は、いぼ痔(痔核)、きれ痔(裂肛)、あな痔(痔瘻)。痔の中でも最も多いのがいぼ痔で、脱出、出血、痛みといった症状があり、働き盛りの世代によく見られます。痛みと出血を伴うきれ痔は、比較的若い女性に多く、痛みや膿みの症状があるあな痔は、若い男性に多いようです。
あな痔は、肛門腺の感染が原因で起こります。最近では、感染を長期間放置すると肛門ガンの原因になることもわかってきました。治療には、感染した肛門腺の切除手術を行います。
きれ痔は、肛門管にできた創(きず)が痛みのためになかなか治らない病気です。症状により、薬や肛門括約筋の一部切開などの治療を行います。
いぼ痔では、薬の他に、特殊なゴム輪で幹部を結紮する方法、出血が多い時は「硬化療法」などの治療法があります。
――― 切らない治療を優先しておられるそうですね。
私は、94年に中国で「硬化療法」の研修を受けましたが、今年春、日本でも新しい薬が認可されて使用できるようになりました。硬化療法は、患部への薬剤注射で痔核を固めて小さくする手術法です。従来の手術に比べて痛みも少なく、入院期間も短縮あるいは日帰りとなる可能性もあり、QOL(生活の質)を維持しながらの治療が可能です。忙しい人に最適なのはもちろん、費用負担も小さくてすみますし、他の病気があったり、体力がないといった理由で手術が難しい人でも利用できるメリットがあります。
当院では、おしりにはできるだけメスを入れるべきではないと考えて「切らない治療」を最優先していますが、「どのような治療法があるか」医師から説明をよく聞いた 上で、ご自身にあった方法を選択すればよいと思います。実際、痔で手術を受けられるのは、2〜3割です。
――― なじみのない大腸肛門科は、どうしても痛い、恥ずかしいという気持ちから敬遠しがちです。
待ち時間を減らし、プライバシーを守って快適に受診していただけるように予約診療制を取り入れたり、女性外来を設けるクリニックも増えてきました。診察室などの設備を個室にするなどの配慮も進んできています。
初診では、痛みや出血、かゆみなどの症状、便の状態、既往歴などの問診の後、診察を行います。診察はふつう、シムス体位といって、おしりを見せていただく姿勢をとってもらって行います。当院では、カメラとモニターをつなぎ、患者さん自身に画像を見ていただきながら、わかりやすく説明するようにしています。
――― インターネットが普及し、情報収集できるようになりました。
たしかに、最近の患者さんはよく勉強しておられますね。患者さんの受診動機を見ると、最近は「ホームページを見て」という方が急増しています。患者さんには、いろんな方法で、どんどん情報収集していただくのがいいと思っています。当院でもホームページを開設していますが、最近はおしりに関する情報を提供するウェブサイトも増えてきましたので、どんどんアクセスして、何が正しいか選択する目を養ってほしいと思います。
私たちは、何か病気が潜んでいるかもしれないというサインがあっても、ついつい「まあ、大丈夫だろう」と、楽観的に考えてしまいがちです。痔と思っていたらガンだったというケースもありますし、ガンでなくても、痔以外の病気が見つかるケースが1割くらいはあります。
繰り返しますが、自己診断には危険が潜んでいます。早期発見できれば治療も早くすみます。とくに出血がある場合は、迷わず専門医の受診を。本人が躊躇している時は、家族の方から受診をすすめていただくのもいいと思います。